日常生活や仕事で良い姿勢を保つことは、健康維持に大切です。負担のない姿勢を身に付きえることで、体の不調を少なくすることができるからです。さらには、姿勢改善を促すことで、運動技術向上、ダイエット、身体の怪我の予防など、あらゆる身体の改善につなげることができます。
そのため、普段立っているときや座っているときに、身体に負担のない姿勢を理解し、構築することは大切です。武道の世界や、解剖学の世界を紐解くと、人にとって負担のない姿勢には、どのような要素が必要かわがっています。
ただ、多くの人は身体に負担のない姿勢の形を理解していません。そのため、背骨などの関節にずれや無理が生じ、怪我をしてしまいます。こうした事態を防ぐために、「身体に負担のない姿勢」を一から学ぶようにしましょう。
では、どのような姿勢を目指し、意識していけば良いのでしょうか?ここでは、武道の観点から負担のない姿勢の作り方を解説していきます。
S字曲線を意識しすぎると、背筋を痛める
よく、整体やダイエットの世界では、姿勢は背骨のラインがS字になるように立つのが理想の姿勢であると言います。つまり、腰を少しそらすようにし、胸を張った姿勢です。
S字ラインを意識した姿勢が良いと言われる理由は、解剖学の書籍を開くと、人の背骨がS字に湾曲しているからです。背骨は腰の骨が前方に湾曲し、背骨の上部が後ろに湾曲したS字の状態からなっています。もし、骨盤が後ろに傾くと、猫背となり、S字の構造が崩れます。こうした理由から、S字の状態になることが大切と説明されます。
確かに、S字のラインが保たれた姿勢は負担が少ないです。しかし、このように聞くと多くの人は腰を反らせてこの姿勢を作ろうとします。これでもキレイな姿勢に見えますが、時間がたつと思わぬ失敗を犯すことになります。
それは、必要以上に腰を反らせすぎることで、背筋が張ってしまうからです。
人の体は脚という土台の上にでんと腰から頭までの上体が最も安定します。前述のような背骨のラインがS字にすると腰の上部から肩甲骨の辺りまではキレイに曲がります。ただ、骨盤が前傾気味になります。すると、背筋の張った少しお尻が後ろに出る「出ッ尻」の姿勢になります。
この姿勢の場合、骨盤が前に傾いているために、上半身が腰の上部にきちんと乗りません。前に傾いているので上半身も前に傾きます。すると、胸郭(きょうかく)が少し前方に出るため、胸筋も張ります。さらに、前傾姿勢を取ると、脚の後ろ側の筋肉が必要以上に張りすぎてしまうために、疲れやすくなります。
一般社会の女性は、この姿勢になっている場合が多いです。このように、腰をそらして胸を張った姿勢を意識しすぎて、上半身に多くの力みを作ります。地球上の重力を考慮に入れると、S字を意識しすぎた姿勢は逆に身体に悪影響を及ぼす可能性があります。
見た目は胸が張って、堂々とした姿勢に見えるかもしれません。しかし、内部の筋肉のこわばりや張りを考えると、S字を意識した姿勢は力みが多く、普段の生活に活かせるものではありません。
最初は、少しだけ前屈みにする
武道の世界では、動作を行う際には、立位の姿勢における身体の状態が大きく関与してきます。もしも、身体の力みが出ている姿勢では、速く動くことも楽に身をこなすこともできません。稽古を続けていき、技が進んでいくにつれて、姿勢の大切さを感じます。
そこで、武道の観点から、身体に負担のない姿勢を学びましょう。まず、見た目のキレイさより先に、「内部の筋肉に無駄な力みがない」ようにします。先ほどのように、背骨のS字構造を意識しすぎると、背筋や胸筋などあらゆる部位が張ってしまいます。まずは、「背筋」「胸筋」に張りがない姿勢を構築することが大切です。
武道の書籍を開くと、「上半身の重みが下半身にしっかり乗っている姿勢」とも説明されます。弓道の世界では、「上体の重心を腰の中央に置くように立つ」という言葉があります。このように、見た目にはとらわれず、下半身の上にしっかり上半身を乗せた姿勢を作るようにします。
その姿勢は外から見ると、「ほんの少し前屈みになる」のが特徴です。もう少し具体的に言うと「足底・腰・肩」の3部位が地面と垂直なラインを通ります。肩のラインをそろえようとすると姿勢は「少し前屈み」になります。このように、少し肩を前に出し、骨盤を立てた姿勢を取ることで、背筋と胸筋に力みのない姿勢が完成します。
このとき、あまり膝関節の裏をピンと張りすぎないように、ほんの少し曲げるくらいにします。すると、ほんの少し前に屈んだ姿勢になります。少し膝を曲げておくと股関節が動かしやすくなり、骨盤が垂直に立ちやすくなります。
武道の世界では、このような姿勢を「釣り竿のような」「風になびくやなぎのような姿勢」とも表現されます。このように、胸や背中に張りのない姿勢を最初に構築すれば、上半身に無駄な力みのない姿勢を構築することができます。
体に負担のない姿勢の作り方のステップ
次に、背筋と胸筋に無駄な力みのない姿勢を構築すれば、見た目もキレイで力みのない姿勢を構築できます。そのためには、「後ろ側の筋肉の使い方を変える」ことと、「各関節の位置を正す」ことが必要となります。
今まで姿勢を正すときは、筋肉の使い方も、関節の位置も意識しなかったと思います。こうして体の仕組みを学ぶことで、より確実に姿勢を正すことができます。
まず、必要となるのは「頭部」の位置です。人差し指を口に当てて「シー」のポーズを取ってみてください。次に、人差し指を押し込み、頭部の位置を後ろに引きます。鼻先とへその位置が垂直に交わるくらいに後ろに引いてください。これによって、首の後ろにある「後頭下筋」に負担がない姿勢を取ることができます。
次に、首を上方に伸ばします。首の後ろを伸ばすことで、胸郭が上方に上がります。あまり上がりすぎると肩に力が入るため、両肩を落とすようにします。その姿勢から、みぞおちを少し内側に引くようにしましょう。これによって、背中の筋肉が上方に伸ばされます。
このように、普段の姿勢で、常時「頭部を引く事」「首を伸ばすこと」「肩を落とすこと」「みぞおちを引く事」が続けることができれば、首の後ろ、脇回り、背中周りの筋肉が同時に働き、楽に姿勢を真っ直ぐに正すことができます。これによって、姿勢を長時間安定させることができます。最初は慣れないと思うので、意識できる間だけでいいので、行うようにしましょう。
この姿勢を構築し、維持し続けることは、「肩、腰痛の改善」「ダイエット」につながります。実際に、私が健康指導をされている方は、皆この姿勢を実践し続けました。それによって、頭痛、肩凝り、腰痛、体重減といったあらゆる健康の問題を解消しました。つまり、姿勢を改善することは、健康につながると強く意識してください。
体に負担のない姿勢は、上半身の重みが下半身にしっかり乗り少しだけ屈んだ姿勢です。まずは、この姿勢を覚えて、強く意識するようにしましょう。そうして、続けていけば、首の後ろや背中側の筋肉を使って姿勢改善を図ることができます。普段の生活で積極的に取り入れることで、疲れや不調を少なくすることができます。